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大切な大切な花
「愛おしい」という思いが、私をときめかせる
その輝きが私の心をあたためる
君が綺麗に花咲かせるなら私はあらゆる手を尽くそう
ああ、手に入らなくても思いが通じなくても……私は君を光りある花だと思い続けよう
ああ、傍らで微笑んでくれるなら私は……
北風に乗って粉雪が舞う。
冬の女王が支配する今、この町は銀世界。
「ルーゲル・ジョーンズ」
初代領主の名前がこの町の名。
通称ゲルジョン、そのアパートメントの一つに住むミリィーアは、恋人を向かえ久しぶりの休日を楽しんでいた。
「ケインっ!! 見て、クリスマス用の飾りっ」
長い金色の髪をなびかせ、ケインが座るソファーの隣りに腰掛けるミリィーア。
大きな瞳。
長いまつげが印象的。
「上手いんだか下手なんだか……バランスが悪いと言うべき何だか……」
首を傾げるケイン。
「ひどーい!何よその中途半端な感想……」
「中途半端な物なんだよ。かしてみろ」
飾りの細かい部分を、器用に整えていくケイン。
その様子を幸せそうな顔で見つめるミリィーア。
「出来た。 ほら」
それを預かり「どーこも変わってなーい」不満そうな声を出しつつも微笑む少女。
「ねぇ。 今日はゆっくり出来る?」
「ああ……そのはずだ」
手に持っていた物を机に預け、ケインの膝の上に座るミリィーア。
「最近は特に警備隊のお仕事で夜遅いでしょ? 怪我しないか心配だし……」
彼の黒髪を撫でるミリィーア。
切れ長の黒い瞳が彼女を見た。
「最近は夜盗や族相手じゃないからな……正体不明の何かを追っている。
小さな子供が石化される怪事件……ふざけている…俺はこれ以上犠牲者を出さない……。
ようやく奴の正体を掴めてきたんだ……俺はあいつを許せない!」
湧き上がる怒りを言葉に紡ぐ恋人に口づけをしようと顔を近づけるミリィーア。
ケインが気付き、ミリィーアの頬を両手で支えようとした時だ。
激しく叩かれる入口の戸の音に瞳を曇らせる。
「先輩っ! 僕ですシックスですっ!! いるんでしょっ?」
緊張した面持ちで、木製の扉を開けるミリィーア。
その先から現れたのは、茶色の髪、クリっとした大きな瞳、幼さが残った少年のような顔。
「こんばんはっ! あっ、ケインさんっ」
ミリィーアの顔を見て少々顔を赤らめたが、後ろに立つケインを目に捕らえるとシックスは鋭い瞳で彼を見つめる。
「先輩っ!!」
その表情一つでケインは上着を持って外へ走り出した。
階段を下りていく二つの足音。
取り残されたミリィーアは胸の上に両手を重ねる。
そのような休日の夜を何度目か迎え、
ついに事件は起きた。
一振りの剣。
シルバーの大剣。
それだけが彼女の手に戻ってきたのだ。
「ああ……ケイン……」
彼女の雪のように白い頬に、一筋の涙がスッと落ちていく。
その雫は、ミリィーアが抱きしめる鞘に収まった剣(つるぎ)へと伝っていった。
一ヶ月・二ヶ月・三ヶ月……。
「大丈夫だ。俺を信じろ」
「戻ってきたら伝えたい事があるんです」
ケインとシックスが最後にミリィーアに託した言葉。
思いだしミリィーアは涙を流す。
そして四ヶ月・五ヶ月……「ケインの死の知らせ」・「シックスの失踪」の知らせから半年が過ぎた。
泣いて泣いて……彼女は泣き続けた。
何もかもが悲しい、何もかもつらい。
ある月の晩。
気にかけて来てくれた女友達を玄関までおくるミリィーア。
「元気出してっ!
……。
もうあれから半年よ……こんな言い方…失礼なのは分かっている、けど…ケインの事は忘れて……」
ミリィーアを思っての言葉だったのだろう・・・だが、彼女にその思いは伝わらなかった。
「ごめんなさい……」
ミリィーアはそれだけを言うと扉を閉めた。
取り残された友はうなだれて……そして帰っていった。
友の足音が消えた頃、ミリィーアは扉を開ける、切なげな顔……頬に涙がつたう。
「いつまで泣いているのかしら」
その言葉に振り向くミリィーア。
縦ロールした肩まである黒髪。
キリッとした眉。
「残念ね。恋人じゃないわ」
初めて見る顔にミリィーアは首を傾げる。
「疲れ果てた顔ね。みっともないわ」
呆れて見せる相手へムッとするミリィーア。
その様子に「クスッ」と微笑む気の強そうな女。
「あらっ。反抗してみせる元気があるなら大丈夫ね」
動揺しているミリィーアの手を取り、彼女は微笑んだ。
「私はアンナ。あなたの恋人の部下だったシックスの妹」
その言葉に「あ……」思い出し呟くミリィーア。
賢くプライドの高そうな瞳。
『アンナに合わせない理由ですかっ?』
良くケインの誘いでミリィーアの作った夕飯を食べに来ていたシックス。
明るくて元気で前向きで……賢い彼は隊長であるケインの部下であり親友でもあった。
ミリィーアもケイン同様彼の人柄は大好きだったので彼女の双子の妹にも是非会いたいと思ったのだ。
シックスとケインは顔を見合わせる。
いたずら小僧のような顔で二人揃って口を開いた。
「「絶対気が合わないからっ!!」」
二人の顔を思い出し、ミリィーアはまた頬を濡らす。
「いつまで泣くの?馬鹿みたいね。あなたが泣いている間に私は兄の手がかりを掴んだわ」
(生きている?シックスが?)
「あの日……あの二人が事件を追った日……兄と良く似た人物が船に乗った」
−記憶にある、小柄な青年の笑顔。
アンナの言葉は続く。
「彼は神前都市“アバロン”へ向かったそうよ」
(私…ケインの遺体も見ていない。彼が何故死んだかも知らない…シックス…彼はどうして私へ何も伝えてくれないの?)
何故?
誰も答えを知らない…シックス以外は。
「私と共に行く?」
アンナの黒い宝玉のような瞳。
ひっかかったのはあの言葉。
『俺を信じろ』
あの夜、いつものように出かける彼に胸騒ぎを覚え、必死に止めた自分へ彼が言った言葉。
(でも・・・もう待つのは嫌・・・何も分からないまま悲しむのも嫌なの・・・)
ミリィーアは息をのみ・・・そして・・・彼女の手を取った。
― 港。
「おじさんっ!こんにちはっ!!」
旅行用の鞄を手に金髪の少女は、出航の準備をしている船員の一人に微笑む。
「みっ、ミリィーアちゃんっ!どうしたんだい?」
その髪。
その服装。
その笑顔。
全部ひっくるめての問いだった。
控えめで大人しい少女はそこにはいなかった。
金の髪をアップにし、動きやすいラフな格好、カラカラっの笑顔。
そして腰に備え付けた…小柄な彼女に似つかわしくない一振りの剣。
「えへへっ!ちょっと冒険に行って来ます」
「そう言うこと」
彼女の後ろに立つアンナ。
その存在に船員は一歩引く。
「ど……どちらまで?」
「「神前都市アバロン!!」」
カモメが空を飛ぶ……海風が塩を運んでくる。
少女達の旅立ちだった。
神の森。
緑あふれるその場所は神聖な場所。
昼間とは正反対で空気は冷たくなっている。
ヒンヤリとした風が栗色の髪を撫でる。
「神の御前…か……」
男はそれだけを口にし、手にバイオリンを持つ。
風のように空気のように音色はその場所へ溶け込む。
その姿をまた別の高見から覗く者がいた。
『いまいま…しい…あのオトコ……神は私だ…私が……いや私であることを…許せない…許してなるものか…』
美しい音色が森全体を奏でた。
「あっつい暑いっ!!」
ミリィーアは着ている洋服の裾をパタパタさせる。
「やめなさいよ。はしたない」
飾り気のないテンガロンハットを目部下に被るアンナ。
「なーによっ!アンナだって汗びっしょりのくせにぃ」
ぷくっと頬を膨らませるミリィーア。
この地へ近づくに連れ分かったことは、神前都市アバロンがゲルジョンと比べものにならないくらい暑いと言うこと。
そして……
「言葉が通じなーいっ!」
金種交換台で手続きを済ませるアンナを傍らに、ミリィーアは不満げな声。
「静かにできないのっ?」
いらっと、アンナは相棒を睨んだ。
「だってー!もうアンナが冷静過ぎるのよっ!!!私、ゲルジョンに住むようになってから
町以外出たことほとんど無いんだからっ……
それに…こんな言葉の通じない国へ来たのも初めてだもの……」
興奮状態の相手にアバロン幣を渡し、アンナは嫌みたっぷりの笑顔を向ける。
「まずは着替えねお嬢さん」
腰に備え付けた拳銃を触ってみせる相手にミリィーアは一歩退く。
「ああん。怖いっ!」
「怖いのはあなたよ」
身体に密着し胸の谷間を強調する服、膝上のパンツスタイル。
それが、ここアバロンでのカジュアル女性のファッション。
「あなた意外にスタイルいいのね」
「えっ?そう」
アンナの言葉に頬を赤らめるミリィーア。
ミリィーアの、腰に剣を備え付けるしぐさにアンナは考え深げな顔。
「そのケインの剣自分用にサイズ小さくしたのね」
ミリィーアはニッコリ微笑んだ。
「だって。私の腕力じゃあの人の剣を使いこなすのは無理よ。
だから自分用に削って貰ったの……あの人がキット守ってくれる」
目を閉じるミリィーア。
アンナの冷たい視線。
「そう」
そう一言だけ彼女は言葉を発する。
路地裏、買い物袋を手に歩く二人、その後ろを数人の男が後をつけていた。
「じゃぁ、守って貰ったらどうかしら……そうね、ここで貴方の腕も確かめたいところだし?」
アンナの言葉にミリィーアが微笑む。
「はーい!」
くるりと振り向くミリィーア。
柄の悪い男のリーダーが彼女の前に立ちふさがる。
『身ぐるみはがされるか、俺達に好きにされるか……どちらかを選べ』
(てっ、言っているような気がする)
すごみのある言葉にミリィーアが微笑む。
それはそれは、お上品な表情だ。
「どちらでも無いわ。だって……」
剣を胸の前で構えるミリィーア。
にっこり、可愛い微笑み。
「好きにするのは私だもの」
ギロリ、上から睨み付ける相手から一歩下がり剣を横から振るっ!
いやらしく歪む相手の顔、男は剣を軽々掴みミリィーアの動きを封じる。
トンッ!
「!?」
男は何が起きたか一瞬理解出来ない。
彼が剣を鞘ごと掴み、その場を固定した瞬間、ミリィーアは男の剣の上を踏み台にして飛んだっ!!
ヒュッ―!
彼女は、背が自分より頭二つ分ある男の頭へ目がけて右足を捻った。
「ヒット」
アンナが感心した顔で呟く。
首を中心に男の身体が左へと飛ぶ。
飛んで着地する瞬間彼女は下から、あまりの出来事に口を開ける男達の数を確認した。
「後4人っ!」
着地して、拳を振り上げてくる男の右肩へ身体を刷り込み相手の力の反動を利用して
「よいしょ」
二人目の男の身体が吹っ飛ぶ。
ミリィーアの金の髪がなびく。
瞳に捕らえたケインの剣を拾い、構えて鞘事振るっ!
(あっ!)
鞘が抜けむき出しになった剣は三人目の男の右腕を……
スパッ!
斬りつける。
「あ…あの……ちょっとやりすぎ…かなぁ?」
肩の上から腕の付け根まで血がシュッと溢れて……。
「うあおおおおおおおっっっっ――!!」
涙をためて大の男が逃げ出す。
他の三人も走り出した。
「ああぁ、ごめんなさい…て、ちょっと血が出ただけじゃない…もう、腕が切り外れた訳じゃないんだし」
罰悪そうなミリィーアにアンナがニッコリ。
「いいんじゃない? さて」
伸びた男二人をのぞき見る少女二人。
酒場。
「いや〜姐さん、強すぎ美しすぎですよっ!」
「こちらの縦ロールのお姉様も美人ですねっ」
二人の男はすっかりミリィーアの力に参ってしまったらしい。
もっとラッキーな事にこの二人、ミリィーア達が使う言語も理解出来るのだ。
(心も身体もって事かしら……うーん。予想以上の強さね)
アンナは男二人にちやほやされて翻弄する少女を見てため息をつく。
(兄さんが言っていた通りか…)
“僕よりミリィーアさんの方が剣と身軽さが上なんだよショックだったよ”
ため息をつく兄を思い出す。
眉間に皺を寄せて唇を噛むアンナ。
(兄さん…兄さん……)
「あ…ありがとう。 ところでこの町で“シックス”ていう青年を見なかった?」
ミリィーアがそれとなく話を切りだした。
男二人は顔を見合わせた後口々に叫んだ。
「茶色の髪に真っ白なマント!?」
「拳銃一つでここのボスを叩き伏せたっ!!」
予想以上の反応に女二人は困惑。
こそ泥二人は汗をだらだら流し…。
「「闇夜の殺屋…通称シックス・ファントム。 その姿をハッキリ視界に捕らえた者に命は無いっ!!」」
まるで子供達がうわさ話を真に受け、怖さ半分・おもしろさ半分で叫ぶ姿に似ている。
アンナが笑い出した。
「な…なにそれ、信じられない…」
『ちなみに例のファントムがこのアバロンの噂の的になったのは半年前くらいからです』
その言葉に二人はハッと顔を強張らせる。
次の瞬間、ミリィーアもアンナもニッコリ微笑んだ。
「「もっと詳しく聞きたいナァ」」
−初めて出会ったのは季節は夏。
おかしな事に戦場で、死体がゴロゴロの場所で私は剣を振るっていた。
彼は救護班として敵味方無く走り回る。
私は彼の仕事を増やす厄介者。
戦う意外に道は知らなかった。
物心ついた時から傭兵のグループに属していた私。
生きる意味を知る為にでは無く、生きる為に私は剣を振るった。
農民が田畑を耕し生活するように、私たちは剣を振るい食いつなぐ……。
疑問を持つ余裕など…余裕を作る意味さえ見いだせなかった…。
だから私に興味を持つ彼…ケインに私は不快を覚え煩わしささえ感じたの…
でも彼の存在は私の心の中で、しだいに大きくなって行った−
深夜―。
やっと男二人から解放されたミリィーアとアンナはホテルにチェックイン。
シャワーで汗を流し一息つく。
トロピカルジュースを手に二人はぽつりぽつりと話しだす。
「おっ驚いたぁ……」
「本当……」
ミリィーアもアンナも呆然。
「手がかりがあるようで少なすぎ」
「話題がありすぎてわけが分からない」
(マフィア相手に弱い者を守った話があると聞けば、逆に町の石像・建物を崩壊させた話しだったり……)
「正直“はぁー?”て奴ね」
と、アンナ。
「一つだけの手がかりは…この町でも子供の石化事件が勃発している事よねぇ」
それは週に一度。
15も満たない少年が、石化される事件。
「ケインも心を痛めていた。 いつも走り回って……」
ミリィーアは呟く。
(そう言う人だから私の心は動きだした…あの人はもういないけど…)
「本当に兄さんなのかしら? 例のファントムが兄さんなら…無意味なことはしないはずだわ。
何か理由があるとしか思えない」
「そうよね。でも、起きた事件を時間軸に置き換えれば…シックスの行動は未来へ行けば行くほど悪い行為へ向かっていると
考えられるかなぁ」
アンナが冷めた目で口を開く。
「無神経を絵に描いたような人よねあなた」
ムッ―と、ミリィーアは何か言い返そうと口を開きかけるが……
フッーーー。
明かりが消えた。
数秒後……。
外から女性の悲鳴。
『おい。また子供が石にされたらしいぞっ!!』
廊下から扉越しに聞こえる声。
ミリィーアとアンナは走り出す。
その現場を見るのは初めてだった。
周囲一体、嵐が来た後のように全てが破壊されていた。
明かりが消えたのは、この争いの時に電熱線が切られた為。
「酷い・・・・酷いよ・・・」
石にされる。
純粋に考えると、石像になってしまった人間を想像する。
現実は違っていた。
もう魂は無い。
しかし恐怖で凍り付いた顔は所々石化し、皮膚の部分は赤く腫れ上がり痙攣している。
胃からこみ上げるものに堪え、しゃがみ込むミリィーア。
「アンナ……?」
彼女の横を通り過ぎ、アンナは少年の死体の側へかがみ込む。
「兄さん……」
そう呟き、死体の側から金色に光る何かを拾って戻ってきた。
「アンナ……それ」
「兄さんのピアスの一つよ、右耳に…全部で3つはめていた。皮肉な者よね…このピアス、よく見ると家族の名前が彫ってあるの。死んだ父さん・母さん、そして私…」
手を開いてみせるアンナ。
ボロボロになったリングに刻まれているのはアンナの名前。
「じゃあ、この少年の命を奪ったのは…」
言いかけたミリィーアの口をアンナが塞ぐ。
「だから無神経だと言うのよ」
死体の側では母親が泣き叫んでいる。
「ごめんなさい。でも…」
言いかけた瞬間遙か視線の先、背の高い木の太い幹に背を預ける男。
「シックスっ!!」
茶色の髪、白いマント。
遠い視線の先。
「信じられない……」
シックスの姿を同じく目に捕らえたアンナ。
「?」
彼女のその言葉に疑問を覚えるミリィーアだった。
−家のしがらみも自分の立場も全て捨てて俺は戦場へ行った。
ボランティアなんて聞こえがいいが俺が望んだのは「完全なる死だった」
ふざけた自殺願望……。
正直死に場所を探していた。
両親が早くに逝き、独りぼっちにされた俺に課せられた領主という立場。
全てに疲れていた。
戦場での、とばっちりでの死。
応急手当も剣でも拳銃でもそこそこ何でもこなしてやる。
やれる事はやって、がむしゃらに動いて…その瞬間が来ればそれでいいじゃないのか?
そう思っていたのに、その地で生きる彼女を見て…俺は恋をした。
誰かを思いやり愛すことは、自分自身を振り返る切っ掛けになった。
彼女に読み書きを教え、生きる余裕を俺は作った。
傲慢な発言だと避難しても構わない。
俺は俺自身の為に彼女を愛したんだから…。
だが…いつからだろう…自分以外の為に何かをすることを偽善だとも思わなくなり。
たくさんの思いをたくさんの存在を守りたいそう思うようになったのは?−
次の日の朝。
図書館。
過去の資料をあさりながら、アンナは呟く。
「オカルトなんて興味ないわ…でも事実に繋がる鍵を探す必要は……」
呟きながら、過去の事件や神話の本をまさぐるアンナに首を傾げるミリィーア。
「ずっと気になっていたのよ。ファントムが何故、この地に足を運んだか?
ゲルジョンとアバロンには何か関係があるの…無くてはいけない」
人気無く、かび臭い場で一心不乱に資料を読みあさるアンナ。
(まいったなぁ……)
とても、資料あさりの手伝いをする雰囲気ではない。
朝から夕方までつき合ったミリィーアだったが、さすがに疲れて先にホテルに戻ることにした。
「うーん」
背伸びをして、町を歩くミリィーア…。
「昨日子供が…襲われた…らしいわよ」
「じゃぁ、後一週間は…大丈夫だね」
子連れの親子が、子供を真ん中にし手を繋ぎながらこちらへ向かってくる。
片言片言・・・ミリィーアでも理解できる言葉が耳に入る。
(こういう時ばかり分かっちゃうんだもんなぁ。
自分さえ大丈夫であればかぁ……思っていても口にしないでほしいなぁ)
いい気分はしないものだ。
暗い路地裏のホテルへ向かい歩くミリィーア。
「シックス・・・」
昨夜見た男は遠くからだったが、シックスに良く似ていた。
「ただ・・・あの死人のような目・・・」
いつも微笑んでいた彼からは想像もつかない表情だった。
『戻ってきたら伝えたい事があるんです』
最後に彼が自分に言った言葉が頭をよぎった。
「早く顔を見せて…そして…私へケインの最後を教えて欲しいの」
呟くミリィーア。
カツーーーーンッ−−−。
自分以外の靴音に立ち止まるミリィーア。
振り向けば、そこにいたのはシックスだった。
「シックス…シックスなのね…良かった。会いたかったのよ。
どうして昨日はすぐにいなくなってしまったの?」
(たくさん、たくさん聞きたいことがあるの・・・私・・・)
ヒューー!
瞬間身体を捻らせるミリィーア。
目の前を通り抜けたのは拳銃の弾だった。
シックスは無表情。
「死…一緒に…伝えたい…君に」
「!!!!」
ボトッーー。
「あ…あ…シックス…腕が腕が落ちているよ…」
拳銃を掴んだ腕は反動に耐えられず地へと落ちた。
カツンカツン……。
シックスは、たどたどしい足取りでミリィーアへと向かってくる。
「戻りたかった…でも…覚えている? 僕は…約束を果たさなければ…」
夕焼けの光り…輝くそれを背に溶けゆく彼の身体。
「あ…いや…駄目よっ!!!」
『神前都市アバロン…神の森…いるよ、大丈夫…』
それは最後のシックスの言葉。
−領主の息子であるケイン先輩は僕の尊敬する人物だ。
昔からなんでもそつなくこなして格好いいっ!
僕はいつも彼に追いつきたくて…追い越したくて…。
そんな彼が家を飛び出し、戦場へ…人の命を繋ぐ仕事を選んだと聞いたとき、不思議と僕は許せなくなった。
『あの男は逃げた』
潜在的にそう思った僕はなんだったんだろう?
僕は常に高見を目指す、誰にも負けたくないし最高の生き方をしたい。
そう願って生きてきた。
努力もしたし、ずるい人間にもなっていた。
周囲は僕を良く評価するけど…まぁ、いいのかなぁって、それも僕だから。
ある日、ケイン先輩が戻ってきた。
金髪の女性を連れて……
「初めまして」
微笑む彼女はミリィーアさんと言う…綺麗で優しくて、実は腕っ節も強かった(笑)
ハッキリしていることは二人が恋人同士であることだった。
ケイン先輩は以前通り僕を可愛がってくれ、いろいろ教えてくれる。
時間が立つに連れて僕ら二人に信頼関係が生まれてくる。
ミリィーアさんが作る夕飯も、週に三回も呼ばれて食べに行った。
あんまり頻繁に行くので妹のアンナに叱られた。
確かに僕は彼らの家族では無いのだから…いけないね。
ここ最近子供の石化騒ぎで忙しい。
ある夜の晩、ケインさんが途中で席を立ち、僕とミリィーアさんのみが夕飯の席に取り残された。
「守ってね。ケインはああ見えて肝心なとき弱いから…助けてあげてね」
ミリィーアさんの言葉、僕は胸がいっぱいだった。
いつものように僕は事件が起きて先輩を呼びに行く。
彼女の切なげな顔、ケインさんの「俺を信じろ」と言う言葉。
僕は…何故か、何故だろう…戻れたら戻れたら彼女へこの思いを伝えようと思っていた…何故なんだろう?−
『先輩っ!危ないですっ。それ以上は近づいては駄目だっ…』
『うるさいっ!!やっとここまで追いつめたんだっ』
『先輩っっっ!!』
『…シックス、シックスっ! 何故俺を庇って…… 』
『力を…得て下さい、大丈夫…僕はあいつに飲まれて気付きました…分かったんです。神前都市アバロン。 あそこへあいつ は封じられていた…落雷が封印の石像を壊して…』
『シックス…シックス? うっ、やめろ…お前は』
『シックス?この触媒の事か…危うく消滅しかけたが…子供の魂が我の命を継ぐんだ』
闇…混沌とした世界。
「嫌ーーー!!」
目を覚ます、ミリィーア。 頬や胸元を伝う汗が、友の死に恐怖した事を意味していた。
「大丈夫……?」
アンナの心配そうな顔。
「あなた。 路地裏で倒れていたのよ…何もなかったから良かったものの…」
「たくさんの闇を見たの…今、行かなきゃ神の森へ……」
アンナの怪訝な顔。
「調べたの?ケインの家系とアバロンの悪魔との関係?」
「えっ? いえ、闇が……」
いつもにまして無表情のアンナ。
「あの…どうしてかしら? アンナ私に拳銃をむけているのは」
にっこり微笑むアンナ。
「どうしてかしら?大嫌いなあなたのような女と半月も共に旅を出来たのは」
完全に固まるミリィーア。
微笑みながら涙を一筋流すアンナ。
「兄さんが死んでいたのは分かっていたのよ。
私たち一応双子だから・・・何となくね。 わかるの……
これも半分勘だけど兄さんを死へ至らしめたのもケインよ。
馬鹿みたいに貴方に惚れていたから…守ったのね、あなたの心を…大切な者を」
チキッ―。
拳銃のリボルバーを回転させる。
「だから決めたの。生き残ったケインの目の前で貴方を殺してやるっ!!」
神の森。
神前都市アバロンから北へ3夜つづけて歩いた先にある場所。
そこには世界を守護するアバロン神が眠ると言われている。
落雷で壊れた封印の石像を見つけたケイン。
漆黒の髪を茶色に染め、真っ白な服装。
闇の悪魔を封じる旅。
あの悪魔がシックスの姿で悪事を重ねないように防いできた旅。
石像を目に捕らえ、切なげな瞳。
「アバロンの神、ルーゲル・ジョーンズへ知恵を与える。
かの地に巣くう悪魔を封じる方法。
7の月7の日7の晩に、自らの血を鍵としてアバロンの地にて悪魔を封じよか……」
そしてその日が今日だった。
それまでの時間を、彼は死者達を慰めるためにバイオリンを弾き、悪魔から人々を守るために銃の引き金を引いた。
バイオリンも銃もどちらもシックスの所有物で、親友が死んでから彼が初めて扱う物だった。
(結局…長い半年という時間、俺は使い慣れないものを使いこなすことで時間をつぶしただけだ。
あの悪魔が許せない。 だが…なにより自分自身が許せない。 結局俺は、全てが終われば彼女……
ミリィーアの元に戻るつもりでいる。)
闇の中に輝く星たちを瞳に捕らえため息をつく。
「所詮俺は偽善者でしかない。
そうだろう?悪魔よ」
彼が振り向いた先には、シックスの姿を模倣した悪魔がいた。
『……さあな。私は人間では無く神だ。
人間による偽善や悪意や…その他の感情にどうこう説明づけるつもりはない。
おまえ達は私の手のひらの上で嘆き苦しみ生命という息吹を私に差し出せばそれで良いのだ』
ジャキー。
通常の銃より、二周り大きいそれをケインは安全装置を外す事で、両手それぞれに持つ銃へ弾を自動装填させた。
「神と言うのは子供の命を媒体に生き長らえる者か?
ましてやお前が今選んでいる姿は成人の男の身体であって、お前が好む生命の息吹とやらとは随分違うが?」
茶色の髪は白髪へ、栗色の瞳は濁った赤へ。
シックスの姿をした悪魔は高らかに笑った。
『始めはな…幼子のような顔をしたこの触媒へ誤って食らいついたが…
このコアは思っていたより扱いやすかった。人に近づくにも…ひひっ…お前を動揺させるにもなぁっっつ!』
悪魔が飛び掛ってくる瞬間、ケインは銃を放つ!
銃を撃ち、左後方へ移動するケイン。
すばやく弾をよけながら迫ってくる悪魔。
「お互い半年の間良くしゃべるようになったなっ!」
悪魔の鋭いツメを避け、ケインは右足を振るい相手の身体を蹴り飛ばす。
体制を整える悪魔目掛け照準をあわせる!
『僕を二度も殺すんですか?』
瞳に涙をため悪魔がケインを見る。
「く……」
歯を食いしばり、ケインは引き金を引く。
「クタバレ…この……悪魔っ!」
動揺したケインが銃を引く瞬間、悪魔は彼の身体に掴み掛かり、両手の銃の矛先は空へと向かう。
『7の月7の日7の晩に…私を封印するのだろ? ルーゲル・ジョーンズの血を引くものよ。
ひひ…ひひ…残念だが封印の石は壊れ使い物にならんぞ!!』
醜く歪む親友の顔…。
(それだけでも…心痛むっていうのに)
人懐っこい友の顔、誰よりも信用に値し、良いことも悪い事もたくさん共に共有してきた大切な!
「お前など……お前などシックスの身代わりにもならない!
あいつが、これから生きる未来をお前と俺で潰したんだ…悪魔よ…たくさんの子供達の命を奪った罪を償え」
悪魔との乱闘の中右のポケットから手榴弾を出し、安全ピンをぬいたそれを無理やり悪魔の口へ押し込むケイン!
その瞬間蹴り飛ばされ、爆発する悪魔!
息も絶え絶えに時計を見るケイン。
「七の時…今……奴の身体はアバロン神によって細胞の構築を押さえられているはずだ…」
最初からケインは悪魔を封印するつもりは無かった。
古い文献を調べた中分かったのは、アバロン神とはもっとも人間に近しい存在であり
なおかつ人間に厳しい試練を与えうる神だということだった。
「俺の先祖にも悪魔の封印の知恵を与えたはしたが、自らの力で悪魔を滅ぼす事を神はよしとはしなかったと。
機会を与え、人間が悪魔を滅ぼすと……!!」
ケインの立つ地面一帯が光だす。
「これは……?」
もし、彼が高見からその地上を拝む事が出来たなら、神の森に広がる金色の巨大な方陣を見ることが出来ただろう。
『私は神だ…神は…私だ、おのれ…人間…』
光の中、ばらばらになった身体を再生させようと肉片が動き出す…。
ざっー!
森から鳥立ちが飛び立った。
『構築…再生…くっ……くあぁぁぁっーーーー!!』
思うように再生が出来ない肉片は、それぞれの部品から熱を吐き出した。
「……!!」
熱は空間に歪みを作り、歪みは熱の存在を遮断しようと抵抗する。
その反動が……。
――!!
各ポイントから爆発を促した。
ケインの身体が地面から浮き上がり飛ばされる。
「ミリィーア……。」
薄れ行く意識の中、ケインは恋人の名を呼んだ。
-兄妹なんて厄介で迷惑なものだわ。
私がこの世に生を受けた時、双子の兄は私以上に両親やその親族に愛想を振りまいていたと思う。
兄は周囲の人に愛され要領良く生きて来た。
その彼と比べられるのは私で、私は普通にしているだけなのに、
「愛想が悪い」だの「何を考えているか分からない」など望みもしない事を言われる。
決まって最後の捨て台詞が「兄を見習え」だった。
そう、私は兄シックスを嫌っていた。
流行り病で両親が亡くなって、気がつけば兄との二人暮し。
以前より兄さんは私に気を使い、一番私に笑顔を向けるようになったと思う。
『ばっかだなぁ! アンナ、ああいうヒガムしか能が無い奴らはほっとけよ。
お前のバイオリンの腕は確かだよ。
僕はそれだけはお前には敵わないものなぁ』
ニコニコ微笑んで私の頭をなでる兄さん。
『アンナの料理の腕は一流だよ。ねぇ、ケイン先輩!!』
私の作った料理を食べながら兄さんはケインさんに同意を求める。
頷きニッコリ微笑むケインさん。
私の頬が赤くなったのを覚えている。
何度目かの冬、金髪の女が私の生活の半分を奪っていった。
兄さんは彼女の元へ週三回は夕飯を食べに行くのが日課になった。
ケインさんの姿は見なくなった。
「寂しいかな……」
ある日ぽつりと言った言葉に兄さんが過剰反応して慌てて言った。
「あ…アンナ。僕アンナが一番誰よりも大切だよ。だから安心して、ずっと僕達は兄妹だし…それに」
双子でも性別の違いが大きく差を出すのかしら?
大人びていく私の身体に反し、目の前で一生懸命言い訳する兄は少年のような顔でこちらを見ている。
「兄さん私の為に死ねる?」
随分馬鹿な質問をした思う。
その言葉に兄が真剣な表情。
「もちろんだよ」
……。
嘘吐き、嘘吐き…大嘘つき……どうして、どうしてあの女の為に死んだのよっ!
私はこれからずっと一人で一人で生きていく…一人で…いやよ。
嫌よ…兄さん生き返って…戻ってきて、お願い。
『ばっかだなぁアンナは…大好きだよ』
いいの、嫌いだけど…嫌いだけどそばにいて欲しかったの…。
私は見栄っ張りで馬鹿で意地悪で…でも私の為に一生懸命だった兄を失いたくなかった。
兄さん…兄さんが守ったものはなんだったの?-
鬱蒼と茂った森の中をオフロードバイクで走るアンナ。
目に入る砂を避けるため黒いゴーグルを着けている。
バイクの後ろを砂埃が追う。
「風向きが変わった」
後ろに乗ったミリィーアが頬を撫でる金髪を押さえ言った。
「えっ!?」
バイクのエンジン音にかき乱されアンナが聞こえないと手を振る。
「風向きがっ! 変わったのっ!!」
その言葉にアンナが時計を見た。
「七の時まで後30分・・・・古文書によればこの森全体に陣形が浮かぶ予兆だわっ」
「えっ!?」
アンナがエンジンを噴かす。
「イソグワヨツ!」
ミリィーアは彼女の腰に両腕をまわす。
「うん。アンナ」
彼女は信頼しきった顔で瞳を閉じた。
「……。」
満天の星空の中、二人を乗せたバイクを月が追いかける。
(空気が冷たい。 アバロン…不思議なところね……昼間とは大分様子が違う。
不思議といえば私も…私の心もおかしい…。
結局、彼女に拳銃を向けたものの…)
あの瞬間―。
アンナに拳銃を向けられてミリィーアは最初激しく動揺したものの
「しかたないかぁ…」
困ったような顔で呟いた。
「……えっ」
拍子抜けしたのはアンナである。
とても残念そうな顔で、右手をひらひらさせながら軽い口調でミリィーアは言ったのだった。
「アンナが私を殺したくなるのも分かるよ、シックスに申し訳ないもの本当。
私は闇の中で見ちゃった。全部…ぜーんぶ」
拳銃を持つ手が震えるアンナ。
「気付かなかったし、シックスの思いも……。
『俺を信じろ』ていうケインの言葉も信じて上げられなかったし……」
にっこり微笑んだ金髪少女。
「でも…こんな時に反則だけど、私はアンナが大好きだったの。
口うるさいけど思いやりのある"お姉ちゃん”て感じで…」
ミリィーアは立ち上がり、アンナの拳銃を握り自分へ向ける。
「遠慮しなくていいよ。私はケインが生きていた事が分かればそれでいいんだから」
引き金を引く指が震えるアンナ。
「ああ、人殺したこと無いのね。私が自分で死のうか?」
震えるアンナの手から拳銃を預かり、それをこめかみに向けるミリィーア。
「じゃっ、後よろしくね」
すんなり、指が動く……。
「だめっ!止めなさいっ」
金髪少女の拳銃を持つ右腕を掴むアンナ!
「ちょっ!!」
弾は天井を貫通した。
床に転がった二人。
「いっ! いっ…痛いっっーーーーー!!」
涙を流す彼女の頬を叩くアンナ。
「いやっ! 駄目よ…ダメッ!! もう嫌よ。 死んだりしないで。 私の傍にいる人が死ぬのは嫌…寂しいのは嫌なの。
私も妹みたいに、大事だって、大切なのあなたが…」
子供みたに泣きじゃくるアンナ。
ミリィーアが「なんだ〜」と呟く…。
「死ぬのなんて意外と簡単だから、それを望まれたら私…アンナとケインならいいかなぁって。
でも…痛いのはいやんなだけど…」
ミリィーアは急な反動で負担が掛かった右手をぶんぶん振る。
深いため息をつくミリィーア。
「ごめんねアンナ。
アンナ、沢山泣きたかったよね、それなのに私ばかりワンワン泣いて……」
目を閉じるアンナ。
(あの瞬間で負けたのよね…私)
エンジンを吹かし、高い岩の上を登りジャンプする。
「ひゃっほーっ!」
ミリィーアが機嫌よく叫ぶっ!
二人は身体を左に傾け、ブレーキをかけた。
「これは……」
月を覆い隠すほどの、強大な石像が斜めから真っ二つに破壊されていた。
後ろ側から見てもその物へ込められた意味が理解出来る。
「これが悪魔が封印されていた石像? …まるで墓石じゃないっ!!」
アンナが驚きの声を上げる。
「大事な…尊敬されるべき人の墓…そんな思いを感じる」
ミリィーアの澄んだ声。
ぼぉーン……。
「?」
ミリィーアが首を傾げる。
不自然な木々、解けて固まった木の上に更に緑茂った木が育っている。
「…さっきから嫌ってほど見ていたでしょ。"サイレント ツリー”昔アバロン神が民が約束を守らなかった事に怒り60日間熱い炎で町を焼き尽くしたという伝説。早い話火山が噴火した時に森の木が溶けて丸い球体に変化を溶けたんだけど・・・中身は空っぽ、風が吹くとその隙間を通って低音だけど重い音がなるの。そしてその上に新しい木々が芽を出し育ったから、サイレントツリーて・・・・ミリィーア?」
ミリィーアは剣を構えた。
「出てくるよ」
「えっ!?」
バキッ!
メキメキメキ……!!
周囲を取り囲む木々の壁を破って現れたのはシックス模倣した悪魔。
「「「「何だキサマラワッ!!」」」」
ぷちっ!
『『何だっていいでしょっ!!』』
右に二体をミリィーアが応戦!
アンナは拳銃を抜くと残り二体にそれを向ける。
四対の悪魔を倒し二人は石像の正面めがけて走る。
「ケインにこの剣を渡さなきゃっ」
アンナが頷く。
「古文書の通りであれば、ケインの剣があの悪魔を滅ぼす事が出来る唯一の鍵」
激しい爆音と光。
(ケインが戦っている…でも、駄目…この剣が無いと)
黄金の光が辺りを支配し始める。
(でも何故かしらルーゲル・ジョーンズ…ケインの祖先は悪魔を滅ぼす事ができたのにあえて封印した)
アンナはちらっと疑問に思ったものの、首を振り意味の無い思いは打ち切る。
岩の壁を飛び越え二人が見たのは…。
「「ケインっ!!」」
荒れ果てた地、異空間から伸びる光り輝く紐がケインの首・両腕を縛り拘束し空中へと持ち上げている。
『私は神だっ!私にはむかう貴様は万死に値するっ!!
苦しみあがきシネッ!死ぬのだっ』
また一つ異空間から伸びる黄色の紐は刃となってケインの太ももを貫いた。
「……」
口から血を流し歯を食いしばるケイン。
彼はそんな状況でも鋭い瞳で見えない相手を睨む。
ミリィーアが飛んだっ!
「はぁっ!!」
ケインを拘束する紐一つをシルバーの剣でたたき切る。
「!!切れたっ」
ミリィーアが喜びの声を上げる。
「ミリィーアっ!」
ケインが叫ぶ。
彼女目掛け刃が接近するっ!!
瞳を閉じ衝撃に耐えようとした時だった。
「あ…に…兄さん?」
アンナの握る拳銃を共に構え・撃ち、ミリィーアを狙う刃をはじいたのは…
茶色の髪、栗色の瞳。
シックス。
「兄さん…生きて、生きていたの?」
その言葉にシックスは首を振る。
集中しろという表情で、彼女の両腕を支え狙いをつけさせる。
弾は全て、ケインを拘束する紐を断ち切った。
ミリィーアと瞳があったシックスはケインの方に視線を移動して見せる。
そして、また金髪の少女と視線を合わせるとニッコリと微笑むシックス。
ミリィーアも同じように微笑んだ後、鋭い瞳になりとケインの傍に駆けよる。
「ケイン…大丈夫!?」
「だ…だいじょうぶだ…」
ケインの手に剣を握らせるミリィーア。
「私も、一緒に行くから」
ケインの身体を支え、二人は一歩一歩歩き出す。
午後8時。
呪縛の光が消え…異空間から姿を現れたのは
長く黒い髪の男。
尊厳の瞳は濁り。
鍛えられた肉体は灰色へと変貌している。
「悪魔でも…ましてや、神でもない…ただの人間だ」
ケインが呟く。
ミリィーアが頷く。
ケインがミリィーアの方を見る。
「『俺を信じろ』と言ったんだがな」
ミリィーアが茶目っ気たっぷりの顔で答える。
「ごめんね」
素直に謝るミリィーア。
「先祖代々の剣を削りやがって・・・」
ギュッ、とケインの腕にピットリくっつくミリィーア。
「ごめんなさい」
「いいさ」
微笑む二人。
アンナを支えたシックスの残像が木屑へ戻る。
『私が神だっ!アバロンであってはならない、私がっ!!』
男が走り出しこちらへ向かってくる。
ケインとミリィーアは剣を構えたっ!!!
消滅の光が神の森を覆う。
2年後-。
「領主様の長き不在…じいは心がうちひしがれるような思いで…」
外交の仕事を終え、車で屋敷へ向かうケイン。
運転席からたしなめるような執事の声。
(ガキの時はこの煩い爺さんにも嫌気がさしていたんだが…)
「今は愛しいとも思えてしまうんだから、時間の経過とは不思議だな」
「坊ちゃま、何かいいましかな?」
鋭い相手の視線に後部座席でたじろぐケイン。
立派なスーツで身を固め。
妻の進めで今はゲルジョンの領主として復帰している。
(と、言っても 俺が戻ったのが一ヶ月前だしなぁ…この地の外交・経済状態を何とかギリギリの状態で保っていてくれたのが爺さん達だし、頭は上がらないわ…相当頑張らないといけない状態だわ…)
結構好き勝手やっていた自分に反省の日々のケイン。
屋敷につき入り口に入ると美しく愛らしい妻が迎え入れてくれる。
「パパッ!」
息子のシックスが走ってくる。
抱き上げるケイン。
「遊んでいる暇は無いですよ。領主様」
反対側の後部座席から秘書のアンナが現れた。
「食事を済ませたら、仕事はタップリ残っていますからね」
その言葉にミリィーアが微笑む。
「頑張ってね。あなた」
彼の頬にキスをして、シックスもその動作を真似る。
皆が微笑んだ。
夜空の雲の隙間から黄金の月が辺りを照らした。
- これから先も、
つらいことも悲しいことも…超えなくてはいけない壁も休む事無く押し寄せてくるだろう。
それでも相手を思いやり、前進むのが人間なのだ-
大切な大切な花
君は私の中での枯れない花
美しく気高く……心に咲き続ける花
愛している
愛している
大切な君
ああ、手に入らなくても思いが通じ無くても……私は君を光りある花だと思い続けよう
ああ、傍らで微笑んでくれるなら私は……
しかし、ただ一つ、君が自らの思いに反して生きるのならば私は手段を選ばない
君が君でいられる為なら、私は何でもする
悪魔に魂を預けても……この身体が朽ちようとも……
ああ……アバロン……君を……いいや、貴方を、神では無く女性として愛していた
END
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