Time immemorial

『あやかし退治の裏事情』

 開幕


 “コレクターには、手を出してはいけない領域がある…”
 (私は…知らず知らずの内に、そのボーダーラインを超えてしまっていたのか…)
 屋敷の主人は、異形のものを目の前にし、絶望的な気持ちでそう思った。
 外からは、潮の香りと小波の音が聞こえてくる。
 洋室の半開きの窓から見える景色は、青い空にふわりふわりと浮かぶ雲。
 その、外の明るさとは反比例して、部屋の中は真っ暗な影と冷たい風に覆われていた。
 クリスタルで出来た女神の像。
 大人の拳ほどあるエメラルドグリーンの宝石。
 真珠が散りばめられた等身大の鏡。
 「この私が偽物を掴まされるとはな…。 少女よ、お前は“ドレの”化身なのだ?」
 男の言葉に、反応する声は無かった。
 前を見据えながら、一歩、また一歩と後退する男の顔は恐怖に引きつっている。
 「ご主人様! どうなさったのですか? さっき…何か、割れたようですがっ!?」
 緊迫する環境の中でのメイドの声だった。
 「君は来るなっ! 逃げろっ!!」
 主人の命令に反して、緊急と判断したメイドは、厳しい顔つきで扉を勢い良く開き、中に入った。
 黒いスカートが正面から来る突風になびき、頭に飾られた白いレースのカチューシャが空を飛び地面へと落ちた。
 風が止み、メイドが、前を直視出来た時には、部屋の中に人はいなかった。
 確かに彼女の主は、扉越しにいたはずなのに…。





 第一幕 「大人の勝手な事情」


 夕焼け空に蝉の声、いいかげん慣れた蒸し暑さの中、俺は石段の一歩目を左足で踏みながら、自転車で去り行く友に手を振った。
 「後ろ乗せてくれてセンキューな」
 「おう、また明日!」
 俺は正面を見据えた。
 奴が消えたほうから、自転車のベル音が聞こえる。
 (あの先、下り坂だからなぁ〜。さぞかし、スピード出て自転車走行は楽しいに違いない)
 100段ある石段を見上げてため息をつく俺。
 「うぇ〜何でウチは神社なんて経営しているんだぁ。しかも、家は境内にあるしさぁ…」
 サッキまで自転車の後ろに乗ってラクしていたからなぁ、余計つらいわけよ階段が〜。
 (“しなくて良い苦労はしない”それが俺のポリシーだ…。畜生、ウチの神社の階段…エスカレーターにでもすればいいのに)
 えっちらほっちら…段のほぼ半分を上りきった後、俺は汗だくの顔して石段に座り込み、そこから見える景色を見た。
 淡い朱色に染められて行く空、色とりどりの屋根の波の外れには何処までも続く真っ青な海がある-。
 (見慣れたモノとはいえ、この景色だけは気に入ってんだよな俺)
 「たっくん!お帰りなさいっ!!」
 げっ!幼馴染の葵(あおい)の声が、上から降りてくる。
 階段を上がりきった所、白と赤の巫女装束で手に箒を持っている少女=葵が俺を見下ろしていた。
 黒く細い髪を、前は薄い眉毛の上で切りそろえ、後ろは腰まで有るそれを一つにまとめていた。黒い宝玉のような瞳は大きくて、長いマツゲが美少女っぷりを現してる。
 彼女の足元にいるウチの白猫が、ニャ―と可愛らしい声をあげた。
 「……」
 俺は、その言葉を無視し、階段を勢い良く上がった。
 「あのね! たっくん。 今度一緒に映画観に行かない? アクション映画なんだけど…女の子の友達はこう言うの観ないから…」
 顔中汗まみれ、黒と緑の迷彩色Tシャツに黒の学生ズボンの俺は早足で彼女の前を通り過ぎる。
 猫が俺の足に追いつき、両手でしがみつく、そいつを抱き上げ、俺は彼女の方に振り向いた。
 「俺の“ごますり”なんて必要無いだろ? 未来の神主さまよ」
 その言葉に、葵は大粒の涙を瞳に蓄えて俯いてしまった。
 蝉の声がウルサイ。
 この幼馴染の存在が疎ましい。
 Tシャツは汗で身体にベッタリついて俺を益々いらつかせた。
 (こいつの顔を見ると…心が苦しくなる…)
 俺は猫を抱きしめながら、その場から立ち去ったのだった。


 本殿正面から右に階段を下った先にあるのが俺の家。
 今時無い純和風の家…たいして立派でも何でも無いけどね。
 日はとっぷり暮れて、風呂に入った後、夕飯を食べ終わった俺は、自分の部屋でテレビゲームをしていた。
 プレイしているのはシューティングゲーム。
 RPGとかは苦手なんだよね。地道にコツコツレベルアップしなきゃいけないじゃん。
 嫌なんだよ。まめな努力とかさ。
 「くっら〜い!また兄貴1人でゲームしてる」
 入り口の方から12歳になる妹=璃子(りこ)の声がした。
 俺は構わず、ゲームをやり続ける。
 「今日は私の誕生日なんだよ! そんな1人でゲームして! 葵さん泣かせてさぁ〜。そう言う風に“心が清く無い”から神通力もままならないんだよ☆ お兄ちゃんの取り得って、本当、その顔だけだよね」
 (あっ! ボタンしくじった!!)
 画面ではゲームオーバーのナレーションが流れている。
 俺は、振り向いて妹に文句の形相で…
 「ふがっ!?」
 まん前まで移動していた璃子は俺の顔を両手で掴んで、こちらを睨んでいる…怖い。
 黒い髪をポニーテール、俺と同じ茶色っぽい瞳に小さい口の妹。
 まぁ、そこそこに可愛いんだけど、今は氷の瞳で俺を見下ろしている…
 「うんもぅ! 女の子並に“目は大きくて鼻も高くて、口もプルンプリンで超可愛い! 芸能人も逃げ出す容姿”で妹の私も妬いちゃう 顔している癖に…どうして笑えないくらいに兄貴って“へタレ”なのっ」
 ずがーんと、人が気にしてる事を直球で言う妹を俺は半泣きで睨んだ!
 「あのなぁ! 俺だって、表はエセ神社、裏は“妖怪退治”専門の一家に好き好んで生まれた訳じゃない!! 
 ましてや、神通力の才能が無いのも、頭が良くないのも、葵が俺の変わりに神通力の勉強しているのも俺のせいじゃ無…む!?」言いかけたところで、妹が両手に力を込める。
 (この馬鹿力! ほっぺたが縮む〜)
 「才能が無くたって、頭が悪くたって、一生懸命頑張っている人の方が断然素敵なのよ、兄さん」
 四歳年下の妹は物凄く大人びた瞳で俺に言った。
 「塾では、高校生レベルの頭を持つ“努力の秀才”の私が言うんだから説得力ありよね。お兄ちゃま♪ ところで、今日は誰の誕生日かな〜?」
 ニコニコ微笑む璃子に俺は渋々ポケットの中から、プレゼントが入った紙袋を渡した。
 中身を手に取った璃子は、目をキラキラさせている。
 「ミッミーのチョーカーだぁ♪」
 “ミッミー”とは、さっきの白猫の名前だ。璃子は嬉しそうな顔で両手をパッと広げ俺に抱きついた。
 「赤いチョーカー超可愛いよっ! 鈴がリンゴの形しているしぃ♪ お兄ちゃん大好きだよ〜」
 すりすり抱きついて来る妹を可愛いとは思うけど…こうも態度が豹変するから女の子は怖い…葵にもこう言う二面性があるのだろうか…いつも大人しくてシッカリ者のあいつも…?
 目の前の妹が自分の膝に乗って、俺の方をクリッと見た。
 (可愛い♪ 璃子! 俺より鼻が低くても、ぽちゃっとしていても可愛いよ…)
 なんて俺の心に更に愛想を振り撒く璃子。
 「三日後はお兄ちゃんの誕生日だね。 璃子お金無いから、手作りのケーキ…お母さんと作るね」
 もう“騙されてやるモード”の俺はニッコリと微笑んだが…。
 突然襖が開き、目の前に“父さん”と“じーちゃん”が現れた。
 二人の神妙な顔に、俺は元のふて腐れた顔に戻ってしまった…。


 家と本堂を繋ぐ、木造りの渡り廊下を男3人列を作って歩く。
 父さんはいつものトレーナーにズボン、じーちゃんは甚平を着ている。
 二人とも、いつものラフ着だし…たいした話じゃないといいんだけど…。
 (だいたい、“堅物オヤジ”と“適当じーちゃん”だからなぁ…性格は合わないし…喧嘩は多いし…。だから、とーちゃんは、普段は仕事で出張ばっかで家にいない…今日は璃子の誕生日だからいるんだろうけど…。にしても、出来そこないの俺に二人揃って“お呼び出し”だもん……良い話じゃ無いよなぁ…あれかな? この間のテスト…赤点だっから? 小遣い減らすとか? げー)
 外からスズムシの鳴く声が聞こえたり、網戸から心地良い風が流れてきたり…とは言え俺の心はブルーだ。
 途中、布団を両手に抱えた母さんとすれ違う。
 「あら、拓。今日がアノ日? 頑張るのよ」
 いつも、ぽっちゃり系で、おっとりとした瞳…の母が緊張した面持ちなのは何故だ?
 「母さん! “アノ日”って…」
 「拓也! 私とお祖父さんで“その件”は話す。 黙りなさい」
 俺のほうを振り向いた父さんの言葉に、母さんは「ごめんなさいね」と一言…逃げて行ってしまった。
 (いったいなんだってんの!?)


 同じく木造作りの引き戸を開けて、本堂に入った。
 中央に何だか分からない仏像と、ゴージャスな飾り段、そんでデカイ木魚…。
 いや〜、絨毯も濃い紫で、立派なんだけど…うち、表向き神社に見えているが…信徒もいないしね。違うのよ…ハハ。
 (久しぶりだなぁ〜本堂に入るの。5、6年ぶりかな)
 母さんの緊張が移ったのか…俺も少し手が汗ばんでいる…と、言うか本堂の中が嫌いなのもあるけど。
 (昔の記憶を思い出す。 いやだなぁ〜早く、出たいんだ…ここから)
 遥かに上にある(何だか“アリガタソウ”な絵が書かれた)天井を見上げ、ため息をつくが、親父とじーちゃんが仏像の前に座布団を横に並べて据わってしまった。
 二人は無言だが、俺がそっちに行くのを待っている。
 「用があるなら早く終わらせてくれよな」
 強がった声を出しつつ、俺も隅にあった座布団の一つを持ってきて、二人と向かい合うように胡座をかいてソレに座った。
 父さんは、どこぞの会社員のように黒い前髪を七三分けにしており、その鋭い瞳を四角張ったインテリメガネで隠している。
 じーちゃんは、頭はスキンヘッド(ハゲじゃないらしい…)で白髪交じりの太い眉毛にギョロッとした瞳にデカイ口している。
 この二人はあまりに似ていない(血は繋がっているけど)が、共通点は、その体格だ。
 グッと開いた肩に、腕力ありそうな腕、胸襟なんてムチャクチャ鍛えているしね。
 俺は自分の身体を見た…へなちょこだぁ〜説明するのも嫌になるくらい!!
 (二人は“あの仕事”には向いているんだなぁ…力仕事みたいな所もあるしね…へっ…俺には関係ないけど! 6年前にサジ投げられたからな…この二人にさぁ。今じゃ、葵先生サマサマだしね)
 捻くれた思いで俺は二人の言葉を待った。
 ― 俺は待っている。
 ― 待っている。
 (待っているんですけど〜おーい! 二人ともどうした!?)
 仏像のサイドに飾られた、灯篭の火がチリチリと辺りを照らす。
 暗い中での重い沈黙…。
 良く二人の様子を見ると、互いに何か責め合っているような…?
 ぼそぼそと「父さんが言ってください。僕には拓也に言う資格は有りません!」とか「何を言う自分の息子じゃろっ!? お前が言え」だとか・・・言い合っていますが…何なんでしょうか?
 「用が無いなら俺戻る」
 そう言って立ちあがりかけた俺の腕を父さんが掴んだ。グッと…痛んですけど…!
 「拓也座りなさい…大事な話がある」
 ぎょえ〜! なんじゃ、そりゃ? その真剣すぎる目は…。
 「まさか〜“妖怪退治屋能力不適合者”の俺に、適任者である葵と、今すぐに結婚しろとか言うんじゃないだろうなっ!?」
 全身の毛を逆撫でた俺に、父さんとじーさんは声を揃えて大声で言った!
『『 そんな簡単に事が済んでいたら、とっくの昔に葵ちゃんと結納させている! お前は明後日の誕生日に本家から正式に後継ぎとして任命テストされるんだっ!!』』
 さすが親子とでも言うのか、一言一言同じようにフザケタ事を言いきりやがった…。
 (はい? 何と言いましたか!? あんたら…)
 口が引きつり、目が血走る…頭が破裂しそうにやばいっ!!
 「ふざけんなぁ! 10年も前に“破門”だって言ったのはアンタラだろっ!!」
 拳を握り、立ちあがった俺は、早足で本堂を出て行った。
 途中、璃子とすれ違ったが、無視して自分の部屋に入り、襖を勢い良く閉じる。
 外から心配する璃子の声が聞こえたが、すぐ追いついた父さんとじーちゃんが妹を諭して3人は行ってしまった。
 しきっぱなしの布団を被る俺。
 (ふざけんな! ふざけるなよ… 馬鹿にしやがって…誰が今更、後なんか継ぐもんかっ!!)
 悔し涙を流しながら不て寝する俺だった…。


 ―  リリリィ―ン。
 ―  リリリィ―ン―。
 
 夕焼け空の下。
 本堂に飾られた風鈴の音を聞きながら、僕は石段の上で早九字を切っていた。
 手を上から下に、右から左に素早く移動させながら言葉を繋ぐ。
 「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」
 その言葉を合図に風が舞う、上に行ったり、下に行ったり。まるで、僕にジャレ合うように。
 くすぐるように舞うんだ!
 (すっげー! 父さんみたいに僕も、かっこよく戦えるんだ!!)
 わくわくして、次の呪法の言葉を続けようとした時だった…。
 「止めて! 精霊達が泣いているわっ。 悪戯に九字を切るなんて…あなた、力有る者でしょ?」
 その言葉に俺は固まる。
 気付けば髪の長い女の子が僕の前に立っていた。
 ヒマワリ柄のワンピース、頭には麦藁帽子をかぶっていた。
 すごく可愛い顔をしているんだけど、今は厳しい顔つきで…こちらを見ている。
 (なんだよ…そりゃ、父さんにも“呪法の勉強”の時以外は“やるな”て、言われているけどさぁ…)
 ちょ…と、ふて腐れたけど、僕は結んでいた印を解いた。それと同時jに風も止む。
 「ありがとう。 私 “加持 葵(かじ あおい) 10歳”あなたは?」
 そう言って葵ちゃんはニコッと微笑んだ。
 (すっごい可愛い! 目も大きくて唇は桜色だし…)
 その様子にホッとした僕は頬を真っ赤に染めて答えた。
 「僕は“鍵坂 拓也(かぎさか たくや)”同じ10歳だよっ」
 そして僕と葵ちゃんは握手した、どちらが先にとか無いよ! 同時に、ギュッと手を握り合ったんだ♪


 葵ちゃんは、詳しい事は良く分からないけど僕の家のお客サマだった。
 彼女の両親は一緒に来ていないようだ。
 父さんや母さんは“葵ちゃんと仲良くしなさい”と言うから、僕はハリキッテ葵ちゃんと遊んだっ!
 夕飯食べて葵チャンと本堂へ向けて走る。
 「すっごいんだっ! ウチは昔から“妖怪退治”を生業にしているんだぞっ!! カッコイイだろっ」
 僕は前を見ないで、葵ちゃんに自慢する。
 (カッコイイ僕! もっとカッコイイところ見せてやるんだぁ!!)
 その言葉に葵ちゃんが、ニコッと微笑んだ! 可愛い! お姫サマみたいだよっ〜。
 「たっくん危ない!」
 その言葉に、前のめりに転ぶ僕…いたたっ…頭打った〜かっこわり〜。
 「大丈夫? 痛い?」
 葵ちゃんが泣きそうな顔で僕を見下ろしている…うひゃ〜顔アップじゃん!
 「だっ大丈夫だって…! それより、本堂に凄い物があって…」
 言いかけたところで、葵ちゃんが僕の“おでこ”にキスをする。
 (ええええっーー! )
 僕は顔を茹でたタコのように真っ赤にした…て、あれ?あれれ?
 (ブツケタ“おでこの痛み”が無くなった! どうして…?)
 葵ちゃんにも僕のように神通力があるのかなぁ…とか思った時だった。
 本堂の方から“父さん”と“じーちゃん”の声が聞こえる…どうしたんだろうっ!? 何か怒鳴り有っているけど…。
 そっと、近づいて…閉め切られた本堂の入り口の前に座る僕と葵ちゃん。
 「なんか、喧嘩しているみたいだね…」
 ちょっと怯え気味の僕の言葉に、葵ちゃんは困った顔をする。
 聞き耳を立てる僕達・・・。
 『だから拓也には無理だと言っているんです! 十歳になりましたが、やっと九字を切れるようになった程度! ましてや“記憶力は無さすぎ”です…力があっても“感は悪すぎ”…体力も無いと来ました。僕達と違い過ぎるですよ…父さん』
『まだ十歳だろが…そんな目くじら立てず、焦らず教えて行けば良い』
 『焦らず? 僕や父さんは10歳で、“あやかし”の一体やニ体簡単に倒していまいした。 拓也にこのまま、この仕事を覚えさせたら死にます……確実にですよ?』
 (父さんの憤る声、じーちゃんの焦る声…何…話しているの? 二人とも…。)
 僕の小さい身体が振るえた。
 唇が凄く揺れているのが分かる。
 『しかし、後継ぎは必要だ…本家が黙っていない』
 落ち込んだじーちゃんの声。
 『だから “葵” あの子を本家から弟子として引っ張ったんです! 分かるでしょお父さん!? 拓也と葵が婚姻を結べば表向きは成り立つんです。 仕事は葵にやらせ、拓也は家を守る。それで良いでしょう?』
 (だから…何を…言っているの父さん? 僕は…僕は何だって言うの? 葵ちゃんが僕の代わりに妖怪退治をするの?それって…それって…)
 僕は入り口の引き戸を開けた、戸が壊れるんじゃないかと言うくらい力を込めて!
 その音に気付いた二人がこちらを見ている、しばらくして、父さんもじーちゃんも心底驚いた顔で僕を見た。
 「それって! 僕が要らないって事っ? 二人は僕を仲間に入れてくれないんだって事っ!?」
 僕は涙を溜めて父さんとじーちゃんを見て怒鳴った!
 「たっくん違うの…」
 えっ? 隣りにいた葵ちゃんが…僕の肩を掴んで、大きな強い瞳で睨んでいる。
 「私はこの家の子になりたいだけ! たっくんの為に頑張るから…お願い! 嫌いにならないで!!」
 深刻な葵ちゃんの顔に僕は益々分からなくなった。葵ちゃんの手をなぎ払う。
 「やめろっ! お前が僕の仕事取るんだなッ! 許さないから!」
 怒鳴る僕を、近づいてきた父さんが抱きしめた。
 「違う拓也! お前には危険過ぎるんだ…拓也…父さんと話し合おう」
 その言葉を無視して僕は暴れた、父さんの顔を叩いて手を解こうとする。
 「離してよッ! 父さんもじーちゃんも葵も…あっち行け〜!」
 叫ぶ僕の目の前で父さんの顔がみるみるうちに怒りの形相に変わっていくのが分かる。僕は構わず声を荒げた。
 「父さん嫌いだ! あっち行け〜!!」
 涙が滝のように流れ、声が枯れるんじゃないかというくらい僕は喚く!
 パンッーー!

 次の瞬間僕の頬に衝撃が走った。 父さんが僕の頬を叩いたんだ。 
 「とう…さん…」
 頭の中がハッキリしない。ただ、鼻や耳から温かい液体が流れて行くのだけが分かった…。
 
 


 第二幕へ